□■□ 手紙 □■□
白ヤギさんからお手紙ついた
「夜分に申し訳ありません。陸遜将軍」
殿の命で少しばかり本陣を離れ、国境付近の砦の様子を見にやって来ていた陸遜。
それも終わり明日は久しぶりに本陣へ帰るという日の夜、部屋に部下が入って来た。
「孫堅殿からの文がとどきました」
手には殿からだという書簡を手にしている。
周到な孫堅の事、ついでにと簡単に解決できる問題個所でも書いてあるのだろうと陸遜はそれを受け取った。
それはやはり予想通りの内容で、しかし少しばかり道から外れるものも何件かあったので地図を見つつ
(この道だとすこし遠回りですかね…)
ふむ…と考えていたら用は終わったはずの先ほどの兵士がまだいたことに気付く。
「わざわざありがとうございました、確かに受け取りましたと伝えてください」
微笑んで言ったがしかしそれでもその兵士は部屋から出て行こうとしない。
「まだ何かありましたか?」
不思議に思って問うと手に持っていたもう1通を翳して少しばかり困った様に尋ねてきた。
「あの、あと、何故か甘寧将軍宛ての差出不明の書簡が混ざっていたのですがいかが致しますか?」
「甘寧殿への?見せてください」
その書簡を目にした瞬間、陸遜の回りの温度が5度は上昇した。
確実に何かを感じ取った兵から甘寧宛てだという文を受け取る。
兵は兵で持ってきた者にこのまま渡して即刻返させるかどうか(恐る恐る)尋ねていたが、既に陸遜は聞いていない。
回りの温度は上昇しつづけているのにその目の温度はどんどん冷め続けているような気がするのは気のせいであろうか。
陸遜はその渡された書簡を長い事見つめて動かない。
兵士ははっきり言ってこの部屋を出たくなった・・・否むしろ故郷に帰りたくなったがしかしそうはいっても所詮上下関係の世界。
指示がなくしては勝手に動けない。しかも話を持ち出したのは自分である。
彼に失敗があるのだとすれば差出不明の上司以外の将軍宛である書簡の振り分けを自己処理しなかったことである。
彼が思い切り後悔をしつつ耐え切れなくなったのか1歩、2歩と後退しだした時、
「判りました、これは私が適切に処理(!!)しておきますので帰って良いですよ?」
陸遜はこう微笑みつつこう言われ兵はその笑顔に更なる恐怖を感じつつ足早に去っていった。
黒ヤギさんたら読まずに食べた
ぐしゃ!!!
部屋に一人になった陸遜の手の中で握りつぶされる書面。(紙なのです。時代錯誤には目を瞑ってください/殴)
それは、孫堅からきた仕事の追加要請の書簡ではなく、それに一緒に書きなぐってあった孫策からのふざけでもなく…。
何故か国境の砦行きのに紛れて送られてきた甘寧宛ての書簡だった。
甘寧の名前の他には何も表記されていないその書簡、それは有得ないくらいの厚さになっていた。
それを見て嫌な予感がしていたが、やはりというか、なんと言うか…。
中身は長々と見ている者が腕をかきむしりたくなるような内容ばかり。
それが数10枚以上にもなって綴られていた。(これは甘寧宛てです)
「良い度胸してますね…」
ふっふっふという笑い声が聞こえそうな勢いである。背中の後ろには紫色のもやが見えた。
これはもう握りつぶすだけでは生ぬるい。
陸遜は立ちあがってその手紙―――蜀の武将、趙子龍からの文を情け容赦なく斬り刻んだ(何度もいうが甘寧宛て)
仕方がないのでお手紙書いた
久しぶりの本陣への帰還。
孫堅に頼まれていた追加の仕事は難なく終らせたが数があったため早めに出たが着くのは予定より遅くなった。
孫堅への挨拶を済ませ、兵たちの様子を見に行き、簡単に指示を与える。
流石に疲れたので早く寝ようと自分の幕舎へ行く途中、前から少しだけ機嫌悪そうな甘寧がやってきた。
「甘寧殿、どうなされたのですか?こんな時間に」
・・・疲れなどどこへやら、目一杯の笑顔を振りまいて甘寧のほうへ駆け寄る。
「あ、陸遜か、遠出から帰ってきてたんだな・・・」
一方甘寧は今初めて陸遜に気がついたかのような口調であった。
「えぇ、少し遅くなってしまいましたが戻って参りました。…それよりもどうかなされましたか?機嫌が優れない様ですが」
「あ・・・いや、なんでもねぇんだ・・・・・・。
・・・・・・。なぁ、陸遜!帰途の道中とかどっかで文持った使者とか見かけなかったか?」
何でもないと目をそらしつつそれでも考え込んでから捲し立てる様な勢いで甘寧が聞いてきた。
「いえ、それらしいものは見かけてないと思いますが・・・・大事な便りですか?」
嘘八百である。
見かけていないどころか目の前の相手が探しているであろう書面の内容から果ては今どうなっているかまで知っているがそれをばらすほど馬鹿ではない。
「そ・・・そうか・・・・・・。変なこと聞いて悪かったな。気にしないでくれ。・・・・じゃあな、おやすみ」
甘寧は陸遜の頭に軽く手を置いた後、陸遜が今まで来た方向へと歩いていった。
甘寧と別れた陸遜は眠るでもなく机についていた。
手には筆記具。何かを綴っているようである。
さっきの何でもないとどう見ても無理やりに笑っていた甘寧の顔がよぎって筆圧が強くなる。
その表情こそ気にしていると示しているようなものなのだが・・・。
そう思うと更に力が入ってしまい筆が曲がること数十回。
別に読みやすくしてやる義理なんてないのでそこら辺は気にしない。
むしろ内容からしても丁度いいだろう。
(前からいけ好かない人だとは思ってましたが・・・)
先刻甘寧が瞬間見せた悲しげな、その表情はあまりにも可愛くて…
それがあの馬鹿げた手紙が来ないからこそそんな顔をするのかと思ったら・・・・腹が立ってきた。
甘寧殿にあのような顔をさせるとは趙子龍、許すまじ!!!)←超責任転嫁
筆を置いた陸遜は丁寧に折りたたんで少しばかりの細工をし部下を呼びつけた。
「明朝、蜀付近へ使いがある者の中に弓が上手いものを紛れさせてこれを持って行って下さい」
さっきの手紙のご用事なぁに
数日後―――
何者かの矢文に襲われ、その文に焚き染めてあったらしい香によって蜀の趙子龍が倒れ
また充満したその香を嗅いでしまった蜀の武将数人が寝込んだ上犯人は依然不明
・・・・・・という噂が風に乗って聞こえて来る事となる。
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[コメント]
この小説は見ての通り童謡を基に作ってみました。
しかし、これは白ヤギ(趙雲)から黒ヤギ(陸遜)への手紙・・・・ではなく
趙雲から甘寧の手紙を陸遜が読んで始末した・・・という話(爆)
書き足し日 ’04.04.01
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